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和歌山地方裁判所田辺支部 昭和45年(ワ)9号 判決

原告

高垣静夫

ほか一名

被告

谷口正夫

ほか一名

主文

被告谷口正夫は原告らに各金二一万六、七七一円五〇銭およびこれに対する昭和四四年一月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告谷口正夫に対するその余の請求および被告愛須貞雄に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告谷口正夫との間に生じた分はこれを二〇分とし、その一を被告谷口正夫の負担とし、その余は原告らの負担とし、原告らと被告愛須貞雄との間に生じた分は全部原告らの負担とする。

この判決の第一項は原告らにおいて各自金七万円の担保を供するときは、その原告は仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告ら

「被告らは各自原告らに対し各金三八七万〇、六一一円およびこれに対する昭和四四年一月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言

二  被告谷口正夫

「原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。」

との判決

三  被告愛須貞雄

「原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。」

との判決

第二請求原因

一  本件交通事故の発生

昭和四四年一月一五日訴外山下潤が普通乗用自動車(和五に二七一四号。以下「被告車」と称する。)を運転し、和歌山県田辺市北新町二六番地先道路を西進中、前方不注意により、同道路右側ハトヤ毛糸店こと三尾川勝吉方前コンクリート車止に衝突し、同乗していた訴外高垣康啓が頭蓋底骨折により即死した。

二  被告らの責任

(一)  本件事故当事被告車の所有者は訴外紀州スバル販売株式会社であつた。

被告愛須は所謂オート・ローンにより訴外紀陽銀行から売買代金を借受け、昭和四三年二月二四日訴外紀州スバル販売株式会社から被告車を購入し、その使用権を取得し、使用者として登録を受けた。

被告谷口は同年六月一五日被告愛須から被告車の使用権を譲り受け、被告愛須の同訴外銀行からの借受金を被告愛須名義で月賦返済していた。

そして、被告愛須は本件事故後被告谷口から被告車を代金不払を理由に引揚げた。

(二)  被告谷口の責任

被告谷口の子訴外谷口広治が被告車を使用中、本件事故前日の昭和四四年一月一四日同人の友人訴外山下潤にこれを金二、〇〇〇円で賃貸した。しかし被告谷口は被告車の運行支配をなしていたものであるから、本件事故による後記損害につき自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」と称する。)三条に基づき、その賠償責任を負う。

(三)  被告愛須の責任

被告愛須は被告車の登録名義人であり、自動車損害賠償責任保険契約者であり、前記オート・ローンの借受名義人であり、本件事故後被告車を引揚げている。

従つて、被告愛須は被告谷口とは別に被告車の運行を支配する立場にあつたから、被告谷口とともに自動車運行供用者として、自賠法三条に基づき、後記損害の賠償責任を負う。

三  原告らの地位

訴外亡高垣康啓は原告高垣静夫、同高垣富美代間の子で二男である。

四  損害の発生

(一)  逸失利益

訴外高垣康啓は昭和二六年一月二六日生れで本件事故当時満一七才の健康な独身男子であつた。同訴外人は当時訴外紀南電設田辺出張所こと松本厚方に配電工として勤務し一ケ月金五万一、二八三円の収入を得ており、その生活費五割を控除した一ケ月金二万五、六四一円の純利益を得ていた。

ところで、同訴外人の就労可能年数はなお四六年間見込まれるので、その間の逸失利益の本件事故当時における現在価を年毎ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して求めれば、金七二四万一、二二三円(25,641円×12ケ円×23.534(ホフマン係数))となる。

原告らは相談により、訴外亡高垣康啓の右逸失利益に対する二分の一の金三六二万〇、六一一円宛の損害賠償請求権を取得した。

(二)  慰謝料

原告らは訴外亡高垣康啓を一七才に至るまで手塩にかけて育ててきたものであるが、本件事故により同訴外人を失い、全く希望を砕かれた。この精神的苦痛、悲嘆に対する慰謝料は各金二〇〇万円をもつて相当とする。

五  よつて原告らは各自被告らに対し右損害金五六二万〇、六一一円から既に受領した自動車損害賠償責任保険金三〇〇万円および訴外山下潤弁済に係る金五〇万円の合計金三五〇万円の二分の一の金一七五万円宛を控除した金三八七万〇、六一一円およびこれに対し本件不法行為のなされた日の翌日である昭和四四年一月一六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求めるため本訴に及んだ。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一  被告谷口正夫の答弁

請求原因第一項を認める。

同第二項(一)のうち、被告愛須が本件事故後被告車を引揚げたとの部分は争い、その余の部分は認める。同項(二)を争う。

本件事故当時の被告車の運行供用者は原告らの息子である訴外亡高垣康啓ら三名である。

即ち被告谷口正夫は被告車の使用権者で、これを日常通勤等の自家用に使用していたのであるが、本件事故当時はその用途に使用されていなかつたのであり、それは全て訴外高垣康啓らのために使用されていたものである。

訴外高垣康啓、同山下潤、同山中康歳らは遊び仲間であり、同訴外人らは本件事故前日遊興目的に使用するため被告谷口正夫の息子から被告車を借受け、事故当日和歌山市へバスケツト試合を見に行くためこれを使用し、これを運行していたものである。従つて、右目的遂行のため被告車の保守、管理等すべて同人らの支配のもとに委ねられていたものである。

同第三項を認める。

同第四項(一)のうち、訴外亡高垣康啓の生年月日および勤務先を認め、その余を争う。

同項(二)を争う。

同第五項のうち原告らがその主張のとおりの金額を受領したことを認めるが、その余を争う。

二  被告愛須貞雄の答弁

請求原因第一項を認める。

同第二項(一)のうち被告愛須が本件事故後被告車を引揚げたとの部分は争い、その余の部分は認める。同項(三)を争う。

同第三項を認める。

同第四項(一)のうち訴外亡高垣康啓の生年月日および勤務先を認め、その余を争う。

同第四項(二)を争う。

第四被告谷口正夫の抗弁

(一)  本件事故は被告車の借主である訴外山下潤、同亡高垣康啓の過失行為ないしは被告車に対する瑕疵ある管理行為によつて発生したものであるから、このような借主が貸主である被告谷口に対し損害賠償を請求することは信義則違反ないしは権利濫用というべきである。

即ち本件事故は被告車後部座席に同乗した訴外亡高垣康啓が後部ドアを充分閉めなかつたことに起因する。進行途上これに気付いた運転者訴外山下潤と訴外亡高垣康啓はこのような場合被告車を停止させてドアを閉めるべきであるのに時速七〇キロメートルという高速度で進行を継続しながらこれを閉めようとした。

しかして、訴外亡高垣康啓がドアを閉めかけたのであるが、右速度のため容易にこれが閉まらずにいたところ、それに気をとられた訴外山下潤がその前方注視をおろそかにしたため本件事故が発生したものである。

(二)  仮に訴外亡高垣康啓自身が借主でないとしても、同訴外人の目的である遊びに行くために被告車を運行していたのであるから、その目的達成途上において自らまねいた損害は自ら負うべきであつて、その損害賠償を被告谷口に求めることは権利濫用であり公序良俗に反するものである。

(三)  仮に右主張が認められないとしても、前記のとおり本件事故発生について訴外亡高垣康啓が加担しているのであり、その過失は前記のとおりであるから、その過失相殺がなされるべきである。

(四)  原告らは本件損害につき自賠責保険金三〇〇万円および訴外山下潤から金七九万円を受領している。

第五被告愛須貞雄の抗弁

本件事故発生は全く原告らの息子訴外亡高垣康啓の行為によるものである。事故前日同訴外人ら三名は徹夜マージヤンで非常に身体が疲れたのに、無理に訴外山下潤に被告車を運転させ、そのため原告ら主張の過失により本件事故を惹起させたものである。

第六被告ら主張の抗弁に対する原告らの答弁

(一)  被告谷口正夫の抗弁につき

第一項を争う。

被告車の借主は訴外山下潤のみであり、訴外亡高垣康啓は単なる同乗者にすぎない。

本件事故は全く訴外山下潤の過失によるものである。同訴外人が運転に際し前方注視を怠つた原因がドアが完全に閉つていなかつたことによるのであるが、このドアが訴外亡高垣康啓が乗車した時使用されたものかどうかわからず、仮に同訴外人が乗車した時使用したドアであるとしても同訴外人に不注意があつたとはいえない。ドアが充分閉つているかどうかの注意義務は運転者にあつて同乗者にはない。

第二、三項を争う。

第四項を認める。

(二)  被告愛須貞雄の抗弁につき

争う。

第七証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因第一項の事実につき、当事者間に争いがない。

二  そこで本件事故当時被告らが被告車の運行供用者であつたかにつき検討する。

被告愛須は昭和四三年二月二四日オート・ローンにより訴外紀陽銀行から売買代金を借受け、訴外紀州スバル販売株式会社から被告車を購入し、その使用権を取得し、使用者としての登録を受けたこと、被告谷口は同年六月一五日被告愛須から被告車の使用権を譲り受け同訴外銀行からの借受金を被告愛須名義で月賦返済していたことの各事実につき当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すると、被告谷口は息子の訴外谷口広治のために被告車を買いその後同訴外人において被告車を運転使用していたことが認められるから、以上の事実によればなお被告車の登録名義が被告愛須にとどまつているけれども右売却により被告愛須はその運行支配を失ない被告車の運行供用者の地位を喪失したものといわなければならない。

するとその後に発生した本件交通事故の損害につき被告愛須は運行供用者の責任を負担すべき理由はないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告愛須に対する原告らの本訴請求は理由がないこととなる。

次に被告谷口正夫の運行供用者責任につき検討するに、同被告が被告車の使用権者でありこれを日常通勤等の自家用に使用していたことにつき、当事者間に争いがない。

ところで同被告は、本件事故当時被告車の運行供用者はその借主である訴外山下潤、同高垣康啓らであつて同被告ではない旨主張する。

しかしながら、〔証拠略〕によれば、訴外山下潤が昭和四四年一月一四日友人の訴外山中康歳から、翌一五日和歌山市で行われるバスケツトボールの試合を見に行くため、自動車の借受け方を依頼され、そこで同日夕方被告谷口の長男訴外谷口広治(当時二一才)から(1)返還時ガソリンを満たして返還する。(2)謝礼として金二、〇〇〇円を支払う旨の約束のもとに被告車を借受けたこと、翌朝訴外山下潤が運転し前記目的のため和歌山へ向う途中本件事故を惹起したこと、訴外亡高垣康啓は当時単なる同乗者に過ぎなかつたことの各事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、訴外山下潤が前記目的のため一時被告車を借受けてこれを運転中本件事故を惹起したものというべく、いまだ被告谷口の被告車に対する運行支配権を失つていたものということはできない。

すると被告谷口は、本件事故当時被告車の運行供用者として自賠法三条の責任を負わなければならない。

三  そこで被告谷口の抗弁(一)につき検討する。

訴外亡高垣康啓が被告車の借主でなかつたことは前記のとおり明らかであり、本件全証拠によるも同訴外人が被告車の借主であつたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると同訴外人が被告車の借主であることを前提とする同被告の抗弁(一)の主張は、その前提を欠きその余につき論ずるまでもなく採用するに由なきものといわなければならない。

四  次に抗弁(二)につき検討するに、訴外亡高垣康啓は前記のとおり被告車の所謂好意同乗者であり、同訴外人が被告車の運転者でもなくまた被告車の運行者でもなかつた者であり、例え被告車の運行が前記訴外人らの遊びの目的にあり、本件事故の発生につき訴外亡高垣康啓の行為に一因があつたとしても、それは後述のとおり過失相殺の問題として考慮されうるにとどまり、同訴外人の損害賠償請求がただちに権利濫用となりまたは公序良俗に反するものと解することはできない。従つて同被告の右抗弁は独自の理論というべくこれを採用することはできないものといわなければならない。

五  そこですすんで訴外亡高垣康啓の逸夫利益を検討する。

訴外亡高垣康啓が昭和二六年一月二六日生れで本件事故当時満一七才であつたことにつき当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、訴外亡高垣康啓は健康な男子であつたことが認められるから、同訴外人は本件事故により死亡しなければ本件事故後なお四六年間就労可能であつたというべきである。

ところで、同訴外人が本件事故当時訴外紀南電設田辺出張所こと松本厚方に勤務していたことにつき当事者間に争いがなく、〔証拠略〕には、訴外亡高垣康啓は日給金一、六〇〇円で右松本に雇傭されていたことおよび昭和四三年一〇月金四万七、四〇〇円、同年一一月金五万三、四五〇円、同年一二月金五万三、〇〇〇円の月収のあつた旨の供述ないし記載部分があるけれども、〔証拠略〕によれば、訴外亡高垣康啓は電気工事については素人であり、コンコリートをねるなどの雑役に従事していたもので、電気工事士の資格を持たない者は日給金一、五〇〇円位である旨の供述部分並びに〔証拠略〕には所得税および社会保険料の控除など全くなされていないことが認められることに徴すると、訴外亡高垣康啓の月収についての同証人の右供述ないし右書証の記載部分はにわかに措信し難いものというべきである。そして他に訴外亡高垣康啓の月収についての原告らの前記主張を認めるに足りる証拠はないものというべきである。

しかも〔証拠略〕によれば、訴外松本厚は電気工事士の資格を有し昭和四三・四年頃は個人で電気工事関係の仕事をしていた者であるが、既に昭和四四年同訴外人自身訴外紀南電設に社員として入社しそこも一ケ月位で退職し訴外みふね電気産業に入社している情況にあることが認められ、〔証拠略〕によると、訴外亡高垣康啓は中学卒業後大阪市内のクリーニング店に二年余り店員として勤め、その後田辺に戻つてすしの料理人となるべく食堂に見習に行つたが一日でやめその後昭和四三年八月末頃から前記勤務先に勤めるようになつたものであることが認められ、その経歴・就労状況・勤務先の経営情況に鑑みると、訴外亡高垣康啓の勤務先・月収情況が安定していたものということも困難であり、仮に前記の如く三ケ月間訴外亡高垣康啓が原告ら主張のとおりの収入を得たとしても、右のとおりの認定事実を考慮すれば、右三ケ月間の平均金額をもつてただちに同訴外人の本件逸失利益を計算する基準金額となすことは困難というべきである。尤も〔証拠略〕中、昭和四四年一月頃訴外亡高垣康啓は訴外紀南電設の社員となる可能性のあつた旨の供述部分があり、〔証拠略〕中、同訴外人は将来配電工として稼働する積りであつた旨の供述部分があるけれどもこれをもつては右認定を左右するに足りないものというべきである。

すると訴外亡高垣康啓の月収については、当裁判所に顕著な労働省労働統計調査部作成の賃金センサスに準拠して認定するのが相当であり、同訴外人の前記学歴・年令・職歴に照らせば、少くとも同訴外人は本件事故当時右賃金センサスによる全企業(但し、企業規模は一〇人乃至九九人の分による)新制中学卒・一七才・男子の平均月収(平均月間きまつて支給する現金給与額金二万〇、七〇〇円、平均年間賞与その他の特別給与額金一万八、二〇〇円(月平均金一、五一七円))金二万二、二一七円の収入を得ていたものというべきである。

そして同訴外人の生活費は右月収の五割と認められるからこれを控除し、右稼働可能期間の純逸失利益を年毎ホフマン式計算方法により民法所定の年五分の割合による中間利息を控除し、その本件事故当時の現在価を求めると金三一三万七、二七〇円()となる。

六  そこで被告谷口の抗弁(三)(過失相殺)につき検討する。

〔証拠略〕によれば、訴外山下潤が被告車を運転し、訴外山中康歳を助手席に、訴外亡高垣康啓を後部座席に同乗させ、田辺市北新町ハトヤ毛糸店附近を和歌山市方面へ向け時速約六、七〇キロメートルで進行中、被告車後部右側ドアの閉め方が不充分で車の進行中コトコト音を立てていたため、訴外山下潤において被告車の進行を続けたまま後をむき訴外亡高垣康啓に右ドアを完全に閉るよう求め、同訴外人においてドアを閉めようとしたが、その際訴外山下潤において右のとおり前方不注視のまま被告車を進行させた過失により被告車が道路のカーブ地点に接近した直前にはじめてこれを知り、急いでハンドルを左に切つたが及ばず、被告車後部右側部分を右ハトヤ毛糸店店先に衝突させ本件事故を惹起したものであることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

右事実によると、本件事故の発生は訴外山下潤において前記ドアの不充分な閉りを発見した場合車の進行を停めドアを完全に閉めたうえ発車し常に前方に対する注視義務をつくすべきであるのに右義務を怠つた過失に帰因するものであることは明白であるが、訴外亡高垣康啓は前記のとおり後部座席に一人乗車したものであるから、同訴外人において右ドアを充分閉めなかつたことが窺われる外、これを注意されて閉めなおそうとする場合においても同乗者の前記の如き友人関係、同乗目的からみて、同訴外人自身訴外山下潤に対し車の進行を停めるようまたは前方注視をなすように注意し事故発生防止に協力すべき立場にあつたものというべく、本件事故の発生に同訴外人の行為も一因をなしているものということができるから、この点を考慮に入れれば同訴外人の損害額負担の公平の見地からして一割の過失相殺を認めるのが相当である。

そうすると同訴外人の逸失利益は右過失相殺により金二八二万三、五四三円となる。

七  原告らは訴外亡高垣康啓の両親であり、同訴外人の死亡により同訴外人を二分の一宛共同相続したことにつき当事者間に争いがないから、右事実によれば、原告らは訴外亡高垣康啓の右逸失利益についての損害賠償請求権につき二分の一宛の金一四一万一、七七一円五〇銭の損害賠償請求権を取得したものといわなければならない。

八  そこで原告らの慰謝料につき検討するに、〔証拠略〕によれば、本件事故により訴外亡高垣康啓を失つた精神的苦痛は相当深刻であることが認められるけれども、前記のとおりの事故の態様等を考慮すれば、その慰謝料は各金七〇万円をもつて相当と認める。

九  以上の次第で、原告らは各自被告谷口に対し金二一一万一、七七一円五〇銭の損害賠償請求権を有するところ、原告らは本件損害につき自動車損害賠償責任保険金三〇〇万円および訴外山下潤の弁済にかかる金七九万円の合計金三七九万円を受領し原告らはその二分の一の金一八九万五、〇〇〇円宛を右損害賠償請求権に充当したことにつき当事者間に争いがないから、右金額を原告らの前記損害賠償請求金額から控除すれば、金二一万六、七七一円五〇銭となる。

すると被告谷口は自賠法三条の責任により、原告ら両名に対し各金二一万六、七七一円五〇銭およびこれに対し本件事故の日以降の昭和四四年一月一六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を有することとなる。

よつて原告らの本訴各請求は以上の限度で理由があるからこれを正当として認め、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林茂雄)

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